村田吉弘 氏 門上武司 氏 新保吉伸 氏インタビュー
レポート:室田 那奈・松井明日香・吉田悠真・小嶋南帆
はじめに
2025 年10 月22 日、全日本・食学会顕彰委員会×立命館テロワール×和田ゼミ合同調理試食イベントが開催された。私たちは村田吉弘氏、門上武司氏、新保吉伸氏の3 名に「我が国の一次産業と食文化における過去・現在・未来の近江の特徴」についてインタビューをさせて頂いた。ここで軽く3 名のご紹介をする。
村田氏は京都にて三ツ星料亭菊乃井の三代目主人を務めている。今回は料理人という観点から、京都と近江の密接な関係を語ってくださった。
門上氏はフードコラムニストであり、全日本・食学会副理事⾧を務めている。門上氏と近江の食文化の関係は、余呉湖にある日本発酵研究所代表の徳山氏との出会いが大きく関わっている。今回はこの出会いで学んだ熟鮨や熊肉に関するお話を語ってくださった。
新保氏は南草津にある精肉店のサカエヤにて代表取締役を務めている。今回は近江牛と多く触れ合う中で得た知識や歴史について語って下さった。
2.近江と近江牛
初めに株式会社サカエヤ新保氏より、近江の食文化の代表例である近江牛についてお話をお伺いした。ブランド肉の元を辿ると、全て但馬牛に繋がる。その中でも近江牛は1 番古いブランド肉として有名である。昔の食文化では牛肉が禁止されていたが、唯一彦根市のみ牛肉が薬として食べることを許可されていた。こういった歴史的背景が近江牛の誕生と結びついている。
現在の近江牛は枝肉を350kg 程度から600kg 程度にまで大きくできるようになった。また各枝肉には個体番号が割り振られ、育ちなどが一目でわかるようになっている。一方でほとんどのホルモンには個体番号がついていない事が多く、ブランド肉との区別が難しいそうだ。
しかしサカエヤでは枝肉以外にもホルモンまで個体番号で管理しており、どの牛から取れたものかわかるようになっている。また管理方法にもこだわりがある。近年、真空パックが主流になりつつあるが、サカエヤでは使用しない。真空パックのメリットは賞味期限を30-45 日程度保つことが可能な点だ。しかしドリップが発生しやすく、肉の状態が悪くなることがデメリットだ。人はよく年齢で肉が食べられなくなってきたと言うが、新保氏は老いよりも肉の善し悪しが大きく関係していると考えている。そのため肉の状態を良く保ち、美味しく食べていただくために真空パックは使用しないそうだ。このインタビューを通して、新保氏の細部までこだわる姿勢が見られた。
3.近江と熊肉、熟鮨
次にフードコラムニスト兼全日本・食学会副理事⾧門上氏より、熊肉や熟鮨についてお話をお伺いした。突然だが三大牛と聞くと何を思い浮かべるだろうか。新保氏によると関西では松坂・神戸・近江が挙げられることが多く、関東では松坂・神戸は変わらないが、三つ目が人により米沢・近江などと意見がわかれるそうだ。大阪府出身の門上氏は松坂・神戸・近江が最強だと答えていた。だが驚くことにお話をお伺いしていると、近江牛に劣らず美味しいお肉として、状態の良い熊肉という意見が挙がった。
門上氏が熊肉を知ったきっかけは、余呉湖にある日本発酵研究所代表の徳山氏との出会いだ。徳山氏を通して熊肉のポテンシャルの高さに気づいた。熊肉はジビエのため獣臭がすると思われがちだが、ストレスのない状態で血抜きを行うと獣臭を抑えることが出来、美味しく食べることが出来る。熊がナッツ類を食べていた場合、より美味しい熊肉になるそうだ。
熊肉の脂は、はちみつのような甘みがあり素晴らしい肉だと語っていた。
また発酵のプロである徳山氏より、熟鮨(なれずし)※1に関しても教わった門上氏は、鯛の熟鮨など多種類の熟鮨を食して行く中で、熟鮨のバリエーションの豊富さを知った。小さな魚ほど発酵度合いが浅く、食感が異なってくる。例えば湖魚であるアユは、少し発酵している程度で、さっぱりしていることが特徴だそうだ。
ここで菊乃井三代目主人村田氏より、熟鮨と鮒寿司の歴史についてお話をお伺いした。昔は鯖街道を使い、2/3 は鯖を、1/3 はぐじ(甘鯛)を福井から京都へ運搬していた。この帰り道に滋賀の鮒寿司を福井県の若狭や小浜へ持ち帰り、それを元に鯖で熟鮨を作った。次はその熟鮨を京都で販売した。半分は錦市場に卸したが、もう半分は塩が周りカチカチの状態になっていたため早ずし※2にした。これが後の京都で有名になる鯖寿司となる。熟鮨や鮒寿司は、この京都-滋賀-福井の密接な関係と琵琶湖の存在が大きく関わっていることがわかった。
※1熟鮨:塩と米飯で魚を発酵させた寿司。⾧期間かけて完成することが特徴。鮒寿司はこの一種である。
※2早ずし: 塩や酢で締めた魚と酢飯を重ねて強く押し作る寿司。一晩程度の短い時間で完成することが特徴。
熟鮨 https://shizenjin.net/hokuriku_food/local-foods/file102.html
早ずし https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/sabazushi_kyoto.html
4.近江と京都文化
続けて村田氏に京都と近江の文化的繋がりについてお話をお伺いした。先程の熟鮨(鮒寿司)の話より、京都-滋賀-福井は密接な関係を持ち、お互いの文化が混ざっていることが分かった。村田氏は特に琵琶湖の存在は大きく、琵琶湖がなければ今のような食文化は発達していなかっただろうと語った。
また川魚に対する認識や文化も滋賀・京都と他県では大違いであることを語った。京都では元々川魚しか食べられなかったため、鯉のお造りなどの生食も有名だ。だがこの食文化は他地域(主に関東)では驚かれる。川魚に馴染みがない人は、アニサキスはいないかと恐れるが、淡水魚のため生存しておらず生食も安全だ。また泳いでいるアユを串刺しにして焼くことも、近江・京都の特徴である。湖北の川を泳いで上ってきたアユをため池に飼っておき、それを捕まえて焼くことが普通であった。この方法はアユに傷をつけることなく、綺麗な状態で美味しく食べられるそうだ。他県では魚体が大きいほど良い評価がされるが、滋賀や京都は頭まで食べられるような魚体の小さいものが良いと評価される事も大きな特徴である。
5.近江の未来
最後に村田氏に近江・京都の文化が今後どう移行していくかをお伺いした。村田氏は年々琵琶湖の漁師が減ってきていることから、今後5 年程度で殆どいなくなると予想している。漁師がいなくなると、その土地の食文化もなくなってしまう。だからこそ適切な値段で買わないといけないと語った。現代の売り方である「安く売ること」に対して危惧していた。
また環境問題による文化の消滅も危惧していた。昔は家で鮒寿司を漬けていたが、琵琶湖の鮒がいなくなってきているため、この文化が減ってきている。同様に琵琶湖のよしも減ってきている。昔は琵琶湖のよしでよしずを作り、夏に障子からよしずに張り替えるという京都の文化があった。しかしこの京都の文化もなくなりつつある。我々は安土桃山から続く本来の文化をずっと続けることで文化を守らなければならない。例として、菊乃井ではおいしさの提供だけでなく、文化を守る・形態を守ることも商売としている。このように自分達の文化は自分達で守らないといけないことを教えて下さった。
6.おわりに
インタビューを通し、滋賀の琵琶湖を生かした食文化を発信することが我々の役目であると再認識した。少しでも多くの人に魅力を伝え、実際に触れてもらうことで生産者の方や近江の文化を守りたいと思えた貴重なインタビューだった。
