全日本・食学会×人形町今半×立命館大学学生調査団による被災地における食のウェルビーイング調査の報告会
日時:2026年1月30日(金)17:40–18:10 (開場:17:20)
形式:ハイブリッド開催
対面会場:立命館大学 朱雀キャンパス 601西会議室
式次第:
・開会挨拶・趣旨説明
・調査報告書の贈呈
・人形町今半様 ご挨拶
・全日本・食学会様 ご挨拶
・学生による調査報告
・感想と質疑 一社)食学会理事 前田元様他
・総括(山口洋典)
震災被災地における「食のウェルビーイング」調査報告と提言 (pdf)
全日本・食学会×人形町今半×立命館調査団 被災地における食のウェルビーイング調査のページ
報告書抜粋
調査の背景と目的
- 能登半島の地震と豪雨の概要(発生日時・規模)
能登半島地震は、2024年(令和6年)1月1日午後4時10分に発生した。地震の規模は、マグニチュード(M)7.6だった。地震発生時、珠洲市では前回地震からの復旧作業が続いていた。また、石川県志賀町と輪島市では、最大震度7度が観測された。この災害による被害は甚大で、2024年12月24日の時点で死者は489人(うち災害関連死が261人)、負傷者は1,379人にのぼった。避難生活を余儀なくされた人はピーク時で約34,000人に達し、住宅被害は120,790棟に及んだ。輪島市沿岸では最大約4メートルの隆起が確認され、道路寸断や断水が長期化した(公益社団法人ピースボート災害支援センター、 2025)。
さらに2024年9月21日徐々に復興し始めていた能登半島全域が豪雨によって甚大な被害を受けた。2025年3月27日の報告では、豪雨災害により、死者は17人、負傷者は47人に上った (国土交通省、2025)。住宅被害は全壊が106棟、床上浸水51棟、 床下浸水771棟に達した。線状降水帯の発生などにより、各地で河川の氾濫や浸水被害が発生した。多くの住宅が全壊し、床上・床下浸水の被害も多数確認されている。さらに、広い範囲で土砂災害が発生し、多くの集落が孤立する事態となった。
- 被災地域と避難体制(一次・二次避難所)
能登半島地震は、石川県能登地方を中心に発生した。一次避難所とは、災害発生直後に開設される避難所で、警戒レベル3・高齢者等避難にて確実に開設される避難所のことだ (防災新聞、2022)。地震発生直後、各自治体は市民の安全確保のため、学校や公民館などを一次避難所として開設した (防災新聞、2022)。1次避難所の避難者数は、発災直後の1月2日に最大の40,688人に達し、4月9日時点で3,351人となっている(内閣府、2024)。これらの避難所では、避難者の受け入れ、食料や水の提供、医療支援などが行われた。一次避難所が満員となったり、長期的な避難生活が必要と判断された場合、二次避難所として体育館や地域センターなどが開設される(内閣府、2024)。
二次避難所の施設では、より長期的な生活支援が提供された。2024年1月8日の総理の指示を受け、防災担当大臣により災害救助法のホテル・旅館の利用額の基準を、特例的に7,000円から10,000円に引き上げた(内閣府、2024)。主に子供連れの家族やお年寄りなどを中心に、仮設住宅や引っ越し先が決まるまでの間、ホテル・旅館等で避難者を受け入れた。食事に関しては提供する施設としない施設があったが、提供した施設では、施設内の厨房で調理されたものや弁当が提供されたりした(内閣府、2024)。
- 調査の目的(食のウェルビーイングの観点から)
能登半島地震の避難生活では、食事は単に空腹を満たすものではなく、命を守り、心を落ち着け、人と人をつなぐ重要な役割を果たしていた。
そこで本調査では、「食のウェルビーイング(食を通じた安心・つながり・幸せ)」の観点から、能登半島地震においてこれらの課題に対してどのような改善や新たな取り組みが見られたのかを明らかにすることを目的とする。
具体的には、以下の三点に焦点を当てる。 第一に、命を守るための食の工夫や支援の実態を明らかにする。発災直後の限られた食材や環境の中で、どのように人々が食を確保し、命をつないだのかを調査する。第二に、食が避難生活における心の支えや人とのつながりを生み出す役割を果たしていたかを明らかにする。炊き出しや行事食などを通じて、食がどのように人々の安心感や希望を支えたのかを考察する。第三に、行政・地域・ボランティアが協働して「続けられる食支援」を実現するための仕組みを探る。長期化する避難生活の中で、どのように食の支援が持続可能な形で行われたのかを明らかにし、今後の災害対応への示唆を得る。
このように、本調査は能登半島地震における食の実態を通して、災害時における「食のウェルビーイング」の新たな可能性を見いだすことを目的としている。
学生からの提言
① メーカーの皆さんに向けて 〜「作る」から「支援システムの一部になる」へ〜
- 商品開発
乾パン・レトルト中心の備蓄食から脱却し、①アレルギー対応(卵・乳・小麦不使用)②嚥下調整食(刻み・ソフト食)③子ども向け(味・量配慮)④宗教配慮食(ハラール等:豚肉やアルコールを避け、イスラム法(シャリーア)に従って処理・加工されたもの)をセット化した「多様性対応型災食パッケージ」を開発する。現在注目されているおいしい植物性食品はこれらの対応に有力だろう。
- 長期避難対応
3日〜1週間ではなく、2週間〜1か月の継続摂取を前提とした栄養設計(たんぱく質・食物繊維・微量栄養素)を行う。
- 現場適合性
ガス、水が不十分な環境でも提供可能な簡易調理型・盛り付け簡略型商品を開発し、料理人によるアレンジ余地を残す設計とする。
- 平時の連携
自治体、料理人と連携し、防災訓練や地域イベントでの試食・実証導入を行い、現場の声を商品改良に反映させる。
- 情報提供
アレルゲン、栄養成分、宗教対応の可否を大きく一目で分かる表示に統一し、避難所運営者の判断負担を軽減する。
② 行政の皆さんに向けて 〜「公平な配給」から「調整された支援」へ〜
- 分散備蓄
学校、公民館、企業、旅館、福祉施設に役割を分担させ、拠点ごとに異なる備蓄(一般食/配慮食)を持たせる。 ・避難所間で食の格差が生じた場合、横断的に融通できるルールを事前に整備する。
- 初動支援
発災直後はニーズ調査を待たず、最低限+配慮食を含めたセットを自動的に送る「プッシュ支援」を制度化する。
- 調整役
行政、支援団体、料理人、避難者をつなぐ「食支援コーディネーター」を事前指定し、物資・人材・情報の調整を担わせる。
- 情報管理
避難者名簿(マイナンバーカード等)と連動した「食ニーズ把握シート(アレルギー、宗教、嚥下、嗜好)」を標準化し、避難所で共通運用する。
- 二次避難
宿泊施設との事前協定により、受け入れ人数、食事提供形式、補助金額を明確化。
観光支援施策とのバッティング時には、旅館側の経営負担を考慮した調整措置を講じる。
③ 料理人の皆さんに向けて 〜「炊き出し」から「地域の回復を支える専門職」へ〜
- ネットワーク
地域内の飲食店・料理人を登録した「地域調理人ネットワーク」を平時から構築し、連絡手段・参集ルール・役割分担を明確化する。
- 事前訓練
防災訓練や地域イベントで、限られた食材・器具で調理する実践型訓練を行い、非常時対応力を高める。
- 若手育成
RED U-35等を活用し、「食×防災×社会貢献」をテーマにした研修・表彰制度を設け、次世代の担い手を育成する。
- 食と交流
炊き出しを住民参加型(調理・配膳)とすることで、避難者のやりがい(誰かの役に立つ)を創出する。
- 心のケア
年越しそば、節句料理、誕生日会など、行事食・特別食を意識的に取り入れ、生活文化と安心感の回復を支援する。
おわりに
本調査を通して明らかになったのは、災害下における「食」が、単なる生存のための行為ではなく、人々の身体的・精神的安定を支え、地域社会の再生を導く重要な基盤であるという点である。被災直後においては、限られた資源の中で安全かつ衛生的な食の確保が最優先され、命を守るという基本的役割を果たしていた。しかし、時間の経過とともに、食は被災者の心の拠り所となり、他者とのつながりや社会的役割の再構築を促す「回復と再生の媒体」として機能していたことが確認された。
今後の課題としては、アレルギーや宗教的配慮などの個別的ニーズへの対応、平時からの人材育成や地域間連携の強化、そして災害対応における多職種協働の体制整備が挙げられる。とりわけ、行政・NPO・地域住民・民間事業者がそれぞれの専門性を活かし、相互補完的に機能する仕組みの構築が求められる。災害が頻発する現代社会において、「食のウェルビーイング」を中心に据えた災害対応モデルを確立することは、国や地域のレジリエンス向上にも資するものである。
食は、単なる栄養補給の手段ではなくg文化であり、絆であり、人間らしさを回復させる営みである。本調査が示したように、被災地の食の現場には、命を守り、心を支え、地域を再び結び直す力が確かに存在していた。今後は、この経験を踏まえ、「誰一人取り残さない」食の支援体系を平時から整備し、災害時における食のウェルビーイングの確立を目指すことが強く求められる。本報告書が、食を通じたウェルビーイングの社会的意義を再確認し、将来の防災・福祉・地域共生の在り方を考える一助となることを期待する。
食は、単なる栄養補給の手段ではなくg文化であり、絆であり、人間らしさを回復させる営みである。本調査が示したように、被災地の食の現場には、命を守り、心を支え、地域を再び結び直す力が確かに存在していた。今後は、この経験を踏まえ、「誰一人取り残さない」食の支援体系を平時から整備し、災害時における食のウェルビーイングの確立を目指すことが強く求められる。本報告書が、食を通じたウェルビーイングの社会的意義を再確認し、将来の防災・福祉・地域共生の在り方を考える一助となることを期待する。
調査協力者(敬称略)
輪島市 居酒屋「連」 店主 河上 美知男
輪島市 輪島市企画振興部長 山本 利治
輪島市 ピースボート災害支援センター 辛嶋 友香里
七尾市 田鶴浜スポーツクラブ事務局 長田 次夫
七尾市 七尾市垣吉町第1団地仮設住宅自治会長 山本 直樹
七尾市 元・金沢武士団ゼネラルマネージャ—兼アドバイザー 原島 敬之
七尾市 パトリア 成田 達弘
加賀市 吉祥やまなか 総支配人 川口 翼
加賀市 ゆ湯の宿 白山菖蒲亭 坪内 沙織
加賀市 彩華の宿 多々見 常務 多々見 英二
加賀市 彩華の宿 多々見 女将 多々見 美保
加賀市 翠明 常務 桂田 史郎
本調査に関与した立命館大学教職員
石田 雅芳
大場 茂生
サトウ タツヤ
田村 昂一
丹波 史紀
西川 智裕
早川 岳人
宗本 晋作
眞崎 英香
安原 壮一
山口 洋典
和田有史